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東京地方裁判所 昭和62年(行ウ)144号 判決 1989年2月14日

原告

日産ディーゼル工業株式会社

右代表者代表取締役

川合勇

右訴訟代理人弁護士

成冨安信

小島俊明

被告

中央労働委員会

右代表者会長

石川吉右衞門

右指定代理人

福田平

布施直春

小野寺幸夫

倉田洋一

被告補助参加人

総評・全国一般労働組合東京地方本部

右代表者中央執行委員長

梅沢照治

右訴訟代理人弁護士

宮里邦雄

山口広

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  中労委昭和六一年(不再)第五三号事件について被告が昭和六二年一一月四日付でなした命令を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二主張

一  請求原因

1  東京都地方労働委員会は、補助参加人総評・全国一般労働組合東京地方本部(以下「補助参加人」という。)が、原告を被申立人として申立てた不当労働行為救済申立事件(同委員会昭和六〇年(不)第九九号事件)について、昭和六一年七月一日付で別紙(略)一記載のとおりの救済命令(以下「初審命令」という。)を発した。原告は、昭和六一年八月五日に右命令を不服として、被告に対して再審査の申立てをしたところ(中労委昭和六一年(不再)第五三号事件)、被告は、昭和六二年一一月四日付で、原告の再審査申立てを棄却するとの別紙二記載の命令(以下「本件命令」という。)を発し、右命令書の写は同月一九日に原告に交付された。

2  しかしながら、本件命令はその判断に誤りがあり違法であるので取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2の主張は争う。

三  抗弁

被告は、本件命令書理由中「第一当委員会の認定した事実」記載の事実に基づき、同「第二当委員会の判断」記載のとおり判断したものであって、右事実認定及び判断に誤りはなく、本件命令に違法はない。

四  抗弁に対する原告の主張

1  労働組合が使用者との間で適法な団体交渉の当事者となり得るためには、当該使用者が雇用する労働者を組織下に含むことによって使用者と対向関係を有することが必要であるところ、補助参加人は、埼玉県に存在する原告の工場に勤務する労働者をもって組織されている総評・全国一般労働組合東京地方本部北部地域支部日産ディーゼル分会(以下「分会」という。)の加入を認め、かつ右分会及びこれを構成する労働者にかかる事項について原告に団体交渉を申入れている。

2  しかるに、補助参加人の上部団体である総評・全国一般労働組合(以下「全国一般」という。)の規約第一〇条には「都道府県ごとに組合の構成単位として地方本部を置く、地方本部は……都道府県において、わが組合を代表するものでなければならない」と規定されており、また、補助参加人の規約第四条には「本組合は総評・全国一般・東京地評の綱領宣言決議の実現を計るため、東京地方における……目的の遂行並びに達成するをもって目的とする。」、第五条には「本組合は東京地方に存在する労働組合及び労働者で組織する。」と規定されている。したがって、右各規定によれば、補助参加人は都道府県の一たる東京都に存在する労働組合及び労働者を対象として組織する旨定められていることが明らかである。

3  そうすると、東京都以外に存在する労働組合及び労働者は補助参加人に加入し得ず、したがってまた東京都に存在しない分会は適法に補助参加人の構成員とはなり得ないものであり、補助参加人と分会との間には上下関係が存しない。

右のように補助参加人の組合規約上、使用者たる原告が雇用している労働者をもって構成される分会が適法に補助参加人の組織内に存在し得ない関係にある以上、補助参加人は原告と適法なる対向関係を持たないものであって、正当なる団体交渉申入れの当事者ではない。したがって、原告が右団体交渉の申入れを拒否したとしても何ら問題はない。

4  しかるに、被告は、組合規約の解釈運用は組合が自由になし得るものであり、補助参加人と分会との間には適法な上下関係が存するものとして原告の主張を排斥し、原告に対し補助参加人との団体交渉に応ずべき旨を命じた初審命令を維持する旨の本件命令を発したものである。

したがって本件命令には重大かつ明白な瑕疵があり取消しを免れない。

五  原告の主張に対する補助参加人の反論

1  労働組合は、法律上の規制がない限り、組合規約の内容を自由に決定しうるものであり、労働組合がその組織対象をどの範囲にするかも自主的に定め得るものである。そして労働組合が組合規約を決定した場合にもその解釈、運用については当該組合の自主的判断が尊重されるべきものであり、この理は組織対象を定めた規約の解釈運用についてもまた同様である。

2  補助参加人は、その組織対象地域として「東京地方」と定めているが右にいう「東京地方」が行政区画単位としての「東京都」と全く同一の意義でなければならないとする合理的理由はなく、その解釈運用は全国一般及び補助参加人に委ねられているものであり、しかも補助参加人が分会をその構成員としていることの当否についても全国一般及び補助参加人において問題とされたことはない。したがって、使用者たる原告は右規約の解釈運用につき容喙すべきものではなく、自らの解釈を根拠にその主張にかかる理由をもって団体交渉を拒否することは正当でなく許されない。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件命令の適否について検討するに、原告は、補助参加人は原告と適法な対向関係に立つものではなく、原告が補助参加人の団体交渉申入れに応ずる義務がないにもかかわらず、本件命令は原告に対し補助参加人の申入れた団体交渉に応ずべき旨命じた初審命令を維持する旨命じており、したがって、本件命令には明白かつ重大な瑕疵がある旨主張する。

三  本件命令の引用する初審命令が認定した事実は原告において明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。しかして、右事実に弁論の全趣旨を総合すると全国一般及び補助参加人には原告主張の規約が存し、右規約によると補助参加人は東京都下に勤務場所を有する労働者又は同人らによって組織された労働組合を対象として組織する旨定められているものといわなければならないところ、補助参加人は埼玉県に存在する原告の川口工場に勤務する労働者である嘉山将失、東義二、恩田和義により組織された分会をその構成員としていることが明らかであり、補助参加人が分会の加入を認めたことは前記規約に違反するものといわなければならない。

四  ところで労働組合の規約は、それが法律上の制約に抵触しない限り、本来当該組合が自由にこれを定め得るものであることはいうまでもないところであるけれども、一旦規約が定められた以上労働組合及び組合員らは右規約に拘束されこれに違反した場合、その内容において責任を問われることがあるのはもとより当然のことである。

しかしながらまた、労働組合がいかなる労働組合又は労働者の加入を認めるかは、これを制約する規約等の存しない限り、当該組合の意思に任せられるべきものであり、右組合が内部規約に違反して本来加入させてはならない者を加入させたとしても、それは単に内部規約違反にとどまるものであって、かかる違反に対し上部団体を含む当該組織において規約違反を理由として何らかの措置がとられることがあるのは格別、かかる措置がとられない限り、使用者が右規約違反を理由として当該組合等に対し、前記組合への加入の効力を争うことは許されないところである。したがって、この場合使用者において労働組合への加入が規約違反であることを理由として右組合に対し、同組合に属する労働組合又は労働者にかかる事項につき団体交渉を拒否することは許されないものといわなければならない。

五  しかして前記初審命令認定にかかる事実によると、前記団体交渉申入当時まで全国一般及び補助参加人の組織内において、補助参加人が前記嘉山らによって組織された分会をその構成員とすることにつき規約違反が問題とされたことはない。

したがって、補助参加人において分会を構成員としていることが前記規約に違反することを理由として、補助参加人と分会との上下関係を否定し、補助参加人が原告と適法な対向関係に立たないとすることはできず、原告において補助参加人申入れにかかる団体交渉を拒否することは許されない。

してみると、原告の前記主張は理由がなく採用の限りでない。

六  以上の次第で、原告の補助参加人に対する団体交渉の拒否は、正当な理由を欠き労働組合法七条二号に該当する不当労働行為であるから、本件命令には所論の違法はなく、本件命令は正当である。

よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 福井厚士)

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